大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)1407号 判決

よつて右解約申入の正当事由があるかどうかにつき以下に判断する。

前掲証人藤田武則、同伊藤丈夫及び控訴本人の各供述(ただし、控訴本人の供述中一部措信しない部分を除く)並びに前掲甲第一号証、原本の存在及び成立につき争のない甲第三号証の一ないし二十六、成立に争のない乙第五号証の各記載を綜合すれば次の各事実を認めることができる。

(一) 控訴人は被控訴会社が終戦に伴い従業員の大量整理をした際昭和二十年十一月に退社したのであるが、被控訴会社は当時の住宅事情から直ちに明渡を求めることの酷であることを考慮しまた差当つてこれを求めなければならない事情もなかつたので、控訴人にその退社後も本件建物に居住することを許容し、前判示のように本件建物につき賃貸借契約を結んだのであるが、右建物は本来会社従業員の社宅として使用するため戦時中に住宅営団から譲渡を受けたものであり、会社の将来の事業についての見通しもはつきりしなかつたので長期の賃貸借を結ぶことは会社の運営上支障を生ずるおそれのあることを考え期間を一年とし、一年毎に更新する方法をとつて来たこと。

(二) 本件建物はかような経緯で賃貸されたものであり、被控訴会社は本件建物を含む退社従業員居住の社宅について収益をあげる目的で旧社員の外に一般の者にこれを賃貸したことはなく、その賃料も会社従業員たる資格を有する者に対するものよりは割高ではあつたが、統制額もしくはこれをやや下廻る額であり、建物の修繕費その他これに関する諸経費を控除すれば、これらの建物の賃貸による収益はなかつたもので本件建物の賃貸借もその例にもれなかつたことが窺い知られ、控訴人主張のように特別調達庁からの収入は別として本件建物のような社宅の賃貸による収益で会社経営をしていたものとは認められないこと。

(三) 被控訴会社は終戦に伴い大量の人員整理をし前記解約申入当時の従業員は約千四百名余であり、これに対し会社所有の社宅は退社した者が引続き居住する分を含めて約五百二十戸であるが、これには控訴人のように退社した旧従業員でそのまま居住しているものが多く従業員の数は再び増加しつつあり、本件解約申入後独身寮を建てて独身者はある程度収容したけれども、非従業員の社宅明渡が意の如く進まないため、なお家族ある従業員で社宅への入居を希望する者が約六十世帯あるのに殆んどその希望を満たし得ない実情にあること及び本件建物の存する地域には本件建物を含めて十戸の社宅があるが、これらは比較的優良な社宅であるため入居者の大部分はいわゆる役付きの職員であり、将来もそのような者を入居させる方針で、本件解約申入当時その予定者も決まつていたが、その明渡を得られないため、その予定が実現されないでいること。

以上の事実が認められ、原審及び当審における控訴本人の供述中には一部上記認定に反する部分があるけれども、これは前認定に供した証拠に照らし措信し難く他に右認定を動かすに十分な証拠はない。

一方原審及び当審における控訴本人の供述並びに成立に争のない乙第九号証の一、二の記載によれば、控訴人は本件建物に居住し、そこから徒歩約七、八分の場所に事務所を設けて不動産仲介業を営んでいるが、他に移転すべき住居を有している訳ではないので、本件建物の明渡を余儀なくされた場合、新しい住居を求めるために経済的な損失を受けることは推認されるけれども、これがため打開し難い窮境におち入るものとも認め難い。

以上に認定した事実に基き本件解約申入の当時における当事者双方の事情を考察するときは、被控訴人の解約申入は正当の事由あるものと認めるのが相当である。

(梶村 室伏 安岡)

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